はじめに:牛は私たちが思っている以上に「暑がり」です
本格的な夏が近づくと、酪農家にとって最も頭を悩ませるのが乳牛の暑熱ストレス(ヒートストレス)です。 牛は寒さには比較的強いものの、暑さには非常にデリケートな動物。暑熱ストレスを受けると、採食量が落ちて乳量が減少するだけでなく、繁殖成績の低下や疾病リスクの増加など、牧場の経営に直結する深刻なダメージを引き起こします。
その対策として欠かせないのが「換気ファン(牛床ファン)」ですが、皆さんの牛舎ではファンのオン・オフや風量の調整を「気温」だけで決めていませんか?
実は、牛の快適さを保つためには、気温だけでなく「湿度」を考慮した「THI(温湿度指数)」での環境制御が不可欠なのです。
THI(温湿度指数)とは?
THI(Temperature-Humidity Index)とは、温度と湿度の両方を組み合わせて、牛が実際に肌で感じる「体感温度」を数値化した指標です。
人間でも、同じ気温30℃の日であっても、湿度が低くカラッとしている日と、湿度が高くムシムシしている日では、体力の奪われ方が全く違いますよね。汗をかいて体温を調節するのが苦手な牛にとって、湿度の高さは人間以上に致命的です。
一般的に、乳牛はTHIが68を超えると軽度の暑熱ストレスを感じ始め、72を超えると乳量低下などの明確な影響が出始めると言われています。


なぜ「気温だけのファン制御」では不十分なのか
例えば、牛舎内の気温が「23℃」で少し涼しく感じる日だったとします。
- パターンA(乾燥): 気温23℃ / 湿度40% = THI 68 (快適ラインの境界・ストレスなしまたは軽度)
- パターンB(多湿): 気温23℃ / 湿度90% = THI 73 (中度のストレス・すでに乳量低下の危険あり)
人間であれば「今日は23℃だから涼しいな。ファンは止めて(弱めて)おこう」と判断しがちな気温です。 しかし、梅雨時や夜間で湿度が90%あった場合、牛の体感(THI)はすでに「73」に達しています。THI 72を超えると明確な乳量低下が始まると言われているため、気温が23℃であってもファンをしっかり回して換気し、牛の体感温度を下げてあげなければならない状態なのです。牛はすでにストレスを感じています。ここでファンをもっと回さなければ、牛の体温は下がらずダメージが蓄積してしまいます。
つまり、「気温」という一次元的なデータだけでファンを制御すると、牛が本当に助けを求めているタイミングを見逃してしまうのです。
THIをベースにしたファンの無段階(PWM)制御のメリット
そこで現在注目されているのが、温湿度センサーを用いてリアルタイムにTHIを算出し、その数値に基づいてファンの回転数を自動でコントロールするシステムです。
THIベースの制御を導入することで、以下のような大きなメリットがあります。
- 牛のストレスを先回りして軽減 湿度が上がってTHIが危険水域に達した瞬間にファンの回転数を自動で上げるため、乳量低下や体調不良を未然に防ぐことができます。
- 無駄な電力消費の削減 気温が高くても湿度が低く、牛にとってそこまで過酷ではないタイミングでは、ファンの回転数を適度に落とします。常に100%のパワーで回し続ける従来のシステムに比べ、電気代の大幅な節約に繋がります。
- 現場の省力化 「今日は蒸し暑いからファンを強めよう」「夜は涼しいから止めよう」といった毎日の細かなスイッチ操作から解放され、より重要な牛の観察や作業に集中できます。
おわりに
近年の猛暑や異常気象を乗り切るためには、牛の「本当の体感温度」に寄り添った環境づくりが求められています。
現在、弊社ではこのTHIに基づいたファンの自動制御システムを自作し、実際の牛舎でテストを行っています。「気温」から「THI」へ。牛にもお財布にも優しいスマートな暑熱対策を、ぜひ皆さんの牧場でも意識してみてはいかがでしょうか。

