牛は食べたらすぐ横になる

「食べてすぐ横になったら牛になるよ!」子どもの頃、行儀の悪さを直すしつけとして、お母さんから怒られた記憶がよみがえります。恐らくは寝ながら反芻する牛の姿はだらしない光景として、人間のしつけに利用されたのだろうと思われます。でも、牛が食べてすぐに横になるのには理由があります。

牛が横になる理由は?

  • 牛は寝ているときにより乳を作る
  • 胃に血液が集中し反芻行動がより活発になる
  • 足を乾燥させ趾間皮膚や蹄の回復することができる

実際の文献でも、横たわる状態は立っている時よりも乳房の血行が24-28%上昇し、横たわる時間が1時間増えると、0.9kgから1.6kg乳量が上昇するというデータがあります。(Grant, 2004)反芻の効果は、咀嚼による飼料の微細化 -> ルーメン発酵が促進する ->唾液の分泌 -> ルーメン発酵で生成される酸を中和です。牛は1日に唾液を100~190Lも分泌しますが、横臥中の反芻が唾液の分泌により効果的といわれています。飼料中デンプン含量が25%以上になると蹄底潰瘍の危険性は高まりますが、発症するかどうかはだ液の量によります。横臥時間の短い(10時間未満) 牛は蹄疾患に罹っているか、罹る可能性が高いといわれています。よって、肢蹄の健康上でも、快適な牛床は重要と言えます。 では、実際牛はどのぐらい横になっているのでしょうか。下図のグラフは牛の1日24時間の行動を調査した平均値です。

牛の起立行動

牛の行動は牛舎設計が大きく影響します。目標とする牛舎設計、特には牛床の設計の基準は12時間以上牛が横臥できる環境といわれています。上図のグラフでポイントなるのは、牛床で立っている時間をいかに少なくするかです。この調査で牛は1日平均7.2回牛床を出入りしています。別の場所への移動を含む排糞や排尿のための寝起きの動作は13.6回に及びます。牛が牛床で立っている時間2.9時間は、牛床の位置を確保してから寝るまでの時間。または排泄のために立ってからもう一度寝るまでの時間です。つまり、12時間以上の横臥時間を達成するためのポイントは、牛が牛床で立っている時間を減らすことです。

立ち上がりに必要なスペース

下図は何も障害物がない放牧地などで、牛が寝ている姿勢から立つまでの動作を表しています。

起き上がり動作は前半身をすこし上げることから始まります。

後ろ足を起立させことで、後半身が起き上がります。この動作において前半身の部分の高さは100cmまで必要です。 高さだけではなく、前方へのスペースも必要になります。床に鼻が着きそうになるほど頭を下げます。

起き上がる際、前足は45cm程度のまたがる動作をします。

完全に立ち上がるために必要な全半身の高さのスペースは図の例では138cmにおよびます。

寝ている牛に必要なスペース

牛が寝ている状態です。地面と接している部分は70インチ(178cm)です。(写真1)
後ろから見ると、48インチ(122cm)の幅が必要ということが分かります。(写真2)
この写真の白い線は、立ち上がり動作のために必要な空間を表しています。尾から鼻先までの長さの22%増しの空間が必要です。(写真3)

現代の牛必要な牛床寸法

これらの状況を踏まえ、適切な牛床設計を定義した人達がいます。(下表)

ストール寸法牛の体格からの数式定義体高1500mmの場合
ストール全長(シングルローの場合)2.0 x 体高2.0 x 1500 = 3000mm
ストール全長(ダブルローの場合)1.8 x 体高1.8 x 1500 = 2700mm
縁石からブリスケットまでの長さ1.2 x 体高1.2 x 1500 = 1800mm
ネックレールの高さ0.83 x 体高0.83 x 1500 =1245mm
縁石からネックレールまでの距離(1.2 x 体高)-2(1.2 x 1500)-50 = 1750mm
ダブルローの仕切柵の高さ(2700の場合)0.6 x 体高0.6 x 60 = 900mm
ダブルローの仕切柵の高さ(2400の場合)0.7 x 体高0.7 x 60 = 1050mm
ストール幅2.0 x 腰角間の距離(635mm)2.0 x 635 = 1270mm
ブリスケットと間仕切りの空間足の幅100mm

この表はあくまでの牛の快適性を考えて定義したもので、牛舎設計のコストを考えると経済的とはいえません。大切なのは経済性と快適性のバランスをとる姿勢が必要と考えます。また、別の事情による妥協も必要になります。例えば、上表の推奨するネックレールの位置は広すぎます。牛がベッドに排泄しないためのネックレール位置は、62-66インチ(1580mm-1670mm)と言われています。(An Update on Dairy Cow Freestall Design,Nigel B. Cook, MRCVS,Ken Nordlund, DVM 2004)

牛床不良の悪影響:

  • 趾間皮膚や蹄に大きな負担
  • 起き上がり、横たわり動作への恐怖心を抱き、立っている時間が長くなる
  • 牛が汚れ、乳房炎起因菌の感染率が上がる

牛床不良の原因:

  • 不適正な牛床寸法
  • ネックレールの位置
  • 仕切りストールの形状と高さ
  • 前方に障害物

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