私たちが毎日感じる昼と夜のサイクル、これが「光周期」と呼ばれるものです。この光周期は、人間を含む多くの生物にとって、健康や生活リズムに大きな影響を与えていますが、畜産の分野では、家畜の成長や生産性にも密接に関係しています。ここでは、光周期がどのように牛に影響を与え、そのコントロールがどんな効果を生むのかについて、わかりやすく紹介します。
乳牛における光周期コントロールの恩恵
光周期とは、1日の中で光と暗闇が交互に入れ替わる時間のことを指します。これには大きく分けて2種類があり、長時間の明るい時間を持つ「長日光周期(LDPP)」と、暗い時間が長い「短日光周期(SDPP)」があります。牛にとって、この光と暗闇のサイクルは、体の内部時計(サーカディアンリズム)を整えるために欠かせません。
泌乳期の乳量アップ
光周期の調整により、乳牛の乳量は顕著に増加することが知られています。特に、1日16時間の光周期を確保すると、乳牛は6%から最大15%の乳量増加を見せることが研究により確認されています。この効果は、牛のホルモンバランスを調整することによって実現され、さらに食事量が増えることにもつながります。乳牛にとって、光周期を長くすることが、より多くの乳を生産するためのナチュラルな促進剤となります。
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その根拠は?
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メラトニン(N-アセチル-5-メトキシトリプタミン)はインドール系ホルモンであり、松果体(pineal gland)によって暗闇の中で合成・分泌されます(Arendt & Ravault, 1988)。
光の刺激は、メラトニン合成の律速酵素であるヒドロキシインドロ-O-メチルトランスフェラーゼ(HIOMT)を抑制し、それによって血中のメラトニン濃度を低下させます(Buchanan et al., 1992)。
牛では、血中のメラトニン濃度が減少すると、プロラクチン(PRL)、ゴナドトロピン(生殖腺刺激ホルモン)、IGF-I(インスリン様成長因子-I)などのホルモン分泌が増加します。
仔牛の成長促進
光周期の管理は、仔牛の成長にも大きな影響を与えます。成長段階にある仔牛を長日光周期(LDPP)で飼育することで、体重が増えやすく、健康的に成長します。また、光の調整により、仔牛の骨格や筋肉の発達を助け、将来的により高い乳生産能力を持つ成熟した牛へと成長する基盤を作ります。仔牛にとって、光が適切に管理されることで、より強く、健康的な成長が促されるのです。
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その根拠は?
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長日光周期(LDPP)下の子牛ではルーメン(第一胃)内での揮発性脂肪酸(VFA)の生成が多くなるためと考えられています(Osborne et al., 2007)。
LDPP下で育てられた子牛は、より多くの筋肉組織を獲得し、体重増加も大きいことが報告されています(Rius et al., 2005)。これは、短日光周期(SDPP)下の子牛と比較して、血中のインスリン様成長因子-I(IGF-I)の持続的な濃度が高いため(Spicer et al., 2007)、または、単純に光の露出時間が長いことで摂取量が増えた結果であり、栄養素の代謝によるものではない可能性があります(Petitclerc et al., 1983)。
さらに、初成熟から初回分娩までLDPP下で育てられた未経産牛では、
- 乳腺の発達(Petitclerc et al., 1984, 1985)
- 泌乳量の増加
- 分娩時の体格(体重・体高)の増加
が見られ、それらが乳生産量の向上と関連していることが示唆されています(Rius & Dahl, 2006)。
繁殖における光周期の役割
光周期が繁殖に与える影響は、季節繁殖と比較すると、重要性は小さいとされています(Dahl et al., 2012)。長日光周期(LDPP)で飼育された未経産牛は、光周期コントロールをおこなっていない未経産牛よりも早く性成熟を迎えます。また、夏に分娩した牛は、冬や自然短日光周期下で分娩した牛と比較して、発情周期の回復に要する時間が短いことが示されているので(Hansen, 1985)、発情回帰の早い出現が見込まれます。
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その根拠は?
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エストラジオールに応答して黄体形成ホルモン(LH)の分泌が増加するためです(Hansen et al., 1982; 1983)。その結果、初回交配までの期間が短縮されます(Rius and Dahl, 2006)。
乾期における光周期の役割
乾期に短日光周期(SDPP)で飼養れた牛は、長日光周期(LDPP)で飼養された牛よりも次の産次で1日あたり3~4kg多く乳を生産するとされています。(Auchtung et al., 2005)。短日光周期(SDPP)つまり8時間だけ明るく、16時間暗い状態でで乾乳牛を飼うことは、乾期中における乳腺の発達の増加、細胞のアポトーシス(細胞死)の減少、そして分娩時における機能的な乳腺分泌細胞の数の増加が期待できます。(Wall et al., 2005a)
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その根拠は?
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短日光周期(SDPP)下では、血中のプロラクチン濃度がより低下し、それに伴って、プロラクチン受容体(PRL-r)の発現が多くの組織(肝臓、乳腺、リンパ球)で増加することが観察されています(Auchtung et al., 2003)。サイトカイン抑制因子(SOCS)の発現が減少することで乳腺の成長が促進されることが予測されます。
Crawford et al.(2005)は、LDPP、SDPP、SDPP+PRL投与の条件で、乾期中に6週間の研究を行いました。彼らは、PRL濃度が低下し、乳量が増加する傾向をLDPP、SDPP+PRL、SDPPの順で観察しました
最適な光周期とは?
研究によると、乳牛にとって最適な光周期は14時間から16時間の範囲であることがわかっています。光の時間が長くなると、乳牛はより多くの乳を生産するようになります。ただし、この効果を得るためには、光の強さも重要です。最低でも150~200ルクス(15~20フットキャンドル)の明るさが必要とされています。
残念ながら日本では、多くの牛舎では150ルクスを実現できていないという現状があります。そのため、当社では、牛舎の照明設計を行い、必要な光量と種類を計算することが推奨しています。
照明の重要性と適切な配置
照明の質も重要です。乳牛の乳生産を最大化するためには、光源の配置や照明の均等な分布が必要です。照明を設置する際、照明器具と床の距離が高すぎないようにし、均等な光分布を確保することが求められます。例えば、照明器具を床から5メートルの高さに設置した場合、58ワットの蛍光灯1本を20平方メートル(4.5mx4.5m)ごとに設置することで、十分な光強度を確保できるとされています。
さらに、照明の効果を長持ちさせるためには、清掃がしやすい照明器具を選ぶことも重要です。照明が汚れてしまうと、光出力が30~40%も減少することがあります。清掃に適した防水タイプの照明器具を選ぶことが、長期的に効果的な照明を維持するためのポイントです。
光の管理と効果的な運用
また、16時間の光周期が終わった後には、8時間の暗闇が必要です。夜間にたとえ少しでも光が照らされてしまうと、ホルモンのバランスに影響を与え、生産性が低下する可能性があります。
新しい牛舎の建設時には、照明設計を行うことが非常に重要です。適切な照明を計画的に導入することで、乳牛の健康と生産性が向上し、農場の効率も高まります。
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